現場一期一会(試練を乗り越えて輝け 夏の球児たち)

試練を乗り越えて輝け 夏の球児たち


なくなると余計に価値を知るものがあります。「夏の甲子園」もその一つです。新型コロナウイルスの影響で昨年、戦後初めて中止されました。コロナ禍が終息しない中、今年も夏の高校野球シーズンを迎えます。

今の高校3年生は入学してから約半分、コロナ禍の中で過ごしてきました。臨時休校となったり、部活動を制限されたり。最終学年として最後の夏にかける思いはひときわでしょう。

今から10年前の夏、東日本大震災で被災した地域の高校球児たちも悩みました。「自分たちは野球をやっていいのだろうか」。多くの犠牲者や不明者がいて、体育館などで避難生活を続ける人たちがたくさんいました。

でもほとんどが無用の心配でした。

夏の甲子園を目指す大会に仮設住宅から向かう球児を、避難生活を続ける周囲の被災者らが送り出しました。球場の応援席からはひときわ大きな声援が飛び、被災の現実を一瞬忘れさせてくれるような雰囲気に包まれました。

当時、私は震災を報道するため岩手県に駐在していました。仕事の合間に球場に足を運んだ時でした。すらりと背の高い右翼手が本塁に遠投しました。球筋は山なりではなく一直線のレーザービームです。本塁を狙う相手チームの走者を余裕でアウトにしました。

その彼は、今や大リーグで活躍する大谷翔平選手でした。翌年の夏にはマウンドから160キロの速球を投げました。
今年の主役はコロナ禍とも戦ってきた球児たちです。どんなプレーを見せてくれるのか、楽しみです。
朝日新聞さいたま総局長 山浦 正敬